帰国して それなりに必死に生きております。


by bakiwan

オトウト の お話。

 バッキーが死んだ。
 ヤツは今年の夏に16才になる予定だった雄のシーズーだ。
 ずいぶん前から弱り始めていて、母は食べ物に気を遣ったり、お医者さんで貰った薬を飲ませるのに苦労したり、ずいぶん献身的に面倒を見てきた。家族だからねえ、と何度も何度も言っていた。私とバッキーの話をするとき、いつも私たちは「オトウトは?」とヤツのことを呼んでいたのだ。
 ぽんきちが生後6ヶ月で初めて日本にやってきたとき、バッキーは玄関に向かい、ぽんきちを守るように座ったまま動かなかった。人がぽんきちに近寄ると、低いうなり声をあげることすらあった。ヤツも姪を守らねばと思っていたのかもしれない。
 次に1才のぽんきちと会ったとき、あんなに面倒を見てやったのにしつこく追い回され、怒るかなあと心配していたら、困った顔をして私の後ろに逃げてきた。頭の良いヤツだったのだ。

 ぽぽんたが産まれ、私は二人目の姪をバッキーに見せてあげたけど、バッキーはもうわからないみたいだった。
 いつもなら私の声を聞くなり奥から飛び出してきて、においを嗅いだりはねたりして喜んでくれたのに、「おい、バッキー、アンタの姪が産まれましたのでご挨拶ですよ」と言ってもうつろなままだった。ずいぶん長い間、具合が悪いのを我慢して、心配する母のために頑張っていてくれたのだと思う。
 夜中にトイレに行けずにそそうをしてしまうバッキーのために、何度もなんども起きて看病をしていた母の体力ももう限界だった。このままでは母が倒れてしまう、と父がうちに相談にやってきて、まさに今日、かかりつけの内科を持たない母をどうやって病院に連れて行こうかねえ、と相談していた矢先だった。
 調子悪いんだから一度お医者さんに見て貰おう、と言うのに、でも今留守にしたらバッキーが、と動かなかった母を案じたのだろうか。

 目が大きくてふさげないんだ、と力なく笑う母が抱いていたバッキーは、よそ様の話と同じように、今にも起き上がって「嘘だわーん」とか言いそうだった。
 バッキーねんねしてる?と聞いたぽんきちに母は泣きそうな顔で「うん、ねんねした」と答えたが、ぽんきちは再度目を薄く開けているバッキーを見て「ねんねしてないよ、何話してるんだろって言ってる」と笑った。
 でも、血流が悪くなって毛が抜け落ちてしまったしっぽは力なく垂れ下がっていて、足も固まってぴんとしたままだった。
 ちょっと母が仕事をしている隙に一人でそおっと逝ってしまったバッキーのことを考えると、どうにもやりきれない。
 あんなにいいヤツだったんだ、きっと天国に行っただろうなと思う。こういうときだけ、私は天国とか言っちゃうんだ。でも言うんだ。今頃下界を見てため息ついてるよ。たぶん。
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by bakiwan | 2008-02-15 17:08 | 日本での生活などを